「ワイヤーで引っ張っているのに、なぜか歯が動かない…」

そんなとき、もしかするとそれは“骨性癒着（アンキローシス）”という状態かもしれません。

矯正治療では歯が少しずつ動いていくのが一般的ですが、一部の歯がまったく動かない場合には、骨性癒着の可能性を疑う必要があります。

この記事では、骨性癒着とは何か、その原因、見つけ方、そして対処法についてわかりやすく解説します。

■骨性癒着（アンキローシス）とは？

骨性癒着とは、歯の根と顎の骨が直接くっついてしまっている状態を指します。

通常、歯と骨の間には「歯根膜（しこんまく）」と呼ばれるクッションのような組織があり、矯正の力で歯がスムーズに動きます。

しかし骨性癒着がある歯にはこの歯根膜がなく、骨と歯が“溶接”されたように一体化しているため、矯正力をかけても歯がまったく動かないのです。

この状態を医学的には「アンキローシス（ankylosis）」とも呼びます。

■骨性癒着の原因とは？

骨性癒着が起こる原因は明確に特定されていませんが、以下のような要因が関係しているとされています。

• 過去の外傷（ぶつけた・転倒したなど）

• 乳歯の早期脱落や遅延

• 永久歯の生え方に問題がある

• むし歯治療後の感染や、歯根の先にできる病気やトラブル

• 矯正力の過剰なかかり方

特に外傷歴がある歯や、以前に治療した差し歯・被せ物の歯などでは、骨性癒着を起こしている可能性があります。

■どうやって骨性癒着見つける？ レントゲン・診査での確認

骨性癒着は見た目だけではわかりづらく、患者様自身も気づかないことが多いです。

矯正治療中に「この歯だけ全然動かないな」と感じたときに、以下の方法で疑いを深めていきます。

◎レントゲン検査（X線）

• 歯根膜が消失している（黒い線が見えない）

• 周囲の骨と一体化しているように見える

◎CTやCBCT（3D画像）

• 骨との接着具合がより立体的に確認できる

◎打診音

• 骨性癒着がある歯は「キン」という硬い音がする

• 健康な歯は「コンコン」とやや鈍い音

◎歯の移動記録の分析

• 数ヶ月矯正力をかけても歯がミリ単位でしか動いていない

■骨性癒着の歯がある場合の矯正はどうなる？

では、もし矯正中に骨性癒着が見つかった場合はどうすればよいのでしょうか。

◎ 動かさない設計に切り替える

骨性癒着の歯は無理に動かそうとせず、その歯を固定源として活用する設計に変更する場合があります。他の歯の位置を調整することで、全体のバランスを整える方法です。

◎ 歯を抜歯して治療計画を立て直す

どうしてもその歯の位置が問題であれば、抜歯＋矯正の再設計を選択することもあります。特に位置異常が著しい場合や美観・機能に支障があるケースで検討されます。

◎ 外科的処置を伴う矯正（外科牽引）

外科的に骨と歯の癒着を剥がし、動かせるようにする方法もあります。ただし適応は限られており、術後の安定性や再癒着のリスクを考慮して慎重に判断します。

【歯が動かないときこそ、骨性癒着の可能性をチェック】

矯正中に「この歯だけまったく動かない…」という状況があった場合、それは力のかけ方の問題ではなく、“骨性癒着”が原因かもしれません。

適切な診断と対処がなされれば、全体の歯列を整える方法を見出すことは可能です。

大切なのは、焦らず、まずは歯科医院でのレントゲンやCT検査で正確な状態を把握すること。

歯は、見た目だけではわからない情報をたくさん持っています。正しい知識と専門的な診断で、無理のない治療を進めましょう。